弓道と禅


 禅の修行と弓道の修行過程の一部がよく似ている事から、弓道は立禅と呼ばれることがあります。射手の中には弓と禅を同一視して、殊更精神のあり方を強調する方もいらっしゃいます。それはそれで大いに尊重されるべき事ですが、私の考えは異にしています。稲垣源四郎範士や顧問の先生の影響からですが、以下に範士の書籍の一部を紹介します。


「弓心」から
〜(引用開始)〜
 私は弓道と禅とが互いに説明し合う必要はないと思います。弓道は禅と違う点があるとも言えるし、同じとも言えるのです。弓道は禅に限りなく近付くことが出来ますが、禅の単なる入口と考えることは間違いであり、もし単なる入口と考えるのであれば、禅も亦弓道の入口である筈なのです。禅と弓道はお互いに同じ程度の開花を遂げるものであり、禅と同じ位、弓道も精神を発達させ鍛え得る事も「知る人ぞ知る」処であります。
(中略)
 弓道は精神と技術が一体となったものであり、その修練の結果に依り、弓道がどれだけ達成されたか、或いは弟子達がどれだけの境地迄到達し得たかによって、精神的境地は体験され自覚され、それに応じた内的報酬が得られ、これにより我々人間はより高い境地へと到達するのであります。

 この境地は禅と共有するものがあるかも知れません。しかし、これはあくまでも弓道なのです。そしてその中には厳として弓術が存在する世界なのであります。

 ではこの本来ある可き、弓を通じて得ることの出来る「弓の心」とも言うべき精神とは何なのでしょうか。この精神は弓術によって呼び覚まされるのでしょうか。いかにしてそこまで達することが出来得るのでしょうか。何時如何なる時に修行者は自己のものとして自覚することが出来るのでしょうか。自己の技を限界迄追求して、或る時伝書に言う極意はこの事であると確信した時、「弓の心」は既に射手の心の中に目を覚ましているのであります。これは伝書(勿論筋の通った伝書に限りますが)を確実に体験した上での確信でなければなりません。勿論、かかる射手は、自己過信も無ければ、外部に対する誇示の意思も無いのであります。心は「空」なのです。
〜(引用此処まで)〜


「弓道に就いて」から
〜(引用開始)〜
 で、現在の弓の話に移りますけれど、現在の弓は弓道というものの考え方が昔と違うんですね。どちらがいいかということは、主義主張、その人の主観にもよるので大変難しい問題ですが、私共は的中というものを至上と考えまして、的中の為に正しい技を修業する。如何に自分が正しい修業に迫り得るかということに、事実私は一生を賭けたわけですけれども、的中する以外の射はその時の技が正しくないんだ、という考え方、その的中を得る為の刻苦精励の中に精神修養があると私は信じているんです。

 私も六年ばかり禅の修業をしまして、結局弓の修業と非常に一致したところがある。しかし、世間で言う弓と禅という言葉に―何ぞというと弓と禅っていいますけども、私はやはり違うんじゃないかと、弓道はあくまで弓道だ、と思うんです。しかし得る処は禅に近いし、人生に足しになるところがありますので、皆さんには的中を至上として、刻苦精励粉骨砕身して、技と心の練磨修業に務めて頂きたいと思います。
〜(引用此処まで)〜


 この様なコンテンツを作った理由は、以下のSiteを発見したからでした。禅を一切修行していない者が安易に禅と弓を結びつけようとする危うさ、自戒の念を込めて製作しました。野狐禅、野狐禅弓道に陥らぬように・・・。


人生の荷物は少ない方がいい

禅僧 トーマス・カーシュナー
1949年アメリカ生まれ。20歳で来日。禅寺で修行。現在は花園大学国際禅学研究所研究員。著書に「禅僧になったアメリカ人」

〜(引用開始)〜
 ちょうどアメリカの大学と早稲田大学はそういうプログラムを組んでいたわけです。日本に来る前に、『禅と弓道』という本を読んで、非常に日本の弓道と禅が関係が深く、むしろ一つの禅への道として弓道があるという、その『禅と弓道』という本を読んで、早稲田大学に入った時に、弓道部に入ったんです。一年間弓を引いていた。弓道の先生は稲垣源四郎(いながきげんしろう)さんという、当時有名な先生でしたけど、稲垣源四郎先生は八年間一生懸命禅の修行もされた方でしたから、禅の話もいろいろ先生から聞いて、一年間終わった時に、稲垣先生へ相談に行ったわけです。「実はアメリカに戻って大学を卒業するのが筋だと思いますけど、本当の気持は日本に残って、もうちょっと修行の道を続けたいと思っています。正直言いますと、私は迷っています」と。その時に稲垣源四郎先生が、英語で、「Strike while the iron is hot(鉄は熱いうちに打て)」と。だから、大学は後になっても卒業できますけど、そういう修行したい気持があれば一生懸命やったほうがいいという意味で、それで私は日本に残ることに決めました。
〜(引用此処まで)〜

平成21年8月9日

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